今回は、本協会の名誉理事であり太陽光エネルギーについて研究されている渡邊康之教授に話をうかがいました。


公立諏訪東京理科大 工学部 機械電気工学科 博士 
渡邊康之(Yasuyuki WATANABE)
教授 

 
研究テーマ

・有機薄膜太陽電池の作製及び評価

・色素増感太陽電池の作製及び評価

・有機系光化学電池の作製及び評価

・藻類による高効率燃料生成技術の開発


聞き手: 名誉顧問 細谷暁夫 東工大学名誉教授、理事 米澤慶子


 

細谷:私は物理学者なのですが、「我孫子自然エネルギー」は、実践的なことを志している団体なので、渡邊先生が研究されている「薄膜太陽電池」について、実践的なお話しを聞かせて頂きたいと思います。本日は、どうぞ宜しくお願い致します。

 

【農林資産省の4条件クリア】

細谷:電気を作りつつ作物を作るということですが、昨今の事情で、FITが近々、終わるとなると売電は出来ない。とすると自家消費型に行かざるを得ないとそういう観点からしたときに現実性があるのかということを知りたいのですが、作物栽培のビニールハウスというのは、電気を消費するのですね。

 

渡邊:電気というかエネルギーを使いますね。重油を炊いたり、様々な機器を自動化するためにエネルギーを使いますね。

 

細谷:意外にハウス農業というのは、エネルギー消費型なんですね。

 

渡邊:エネルギーを消費しっぱなしではないですかね。外から何かエネルギーが入ってくるわけではないので。

 

細谷:実は、それまで売電のことばかり考えていたのですが、渡邊先生の「薄膜太陽電池」の研究のコンセプトは、太陽光発電によって、エネルギーを作って、そのエネルギーを使って、作物を育て、しかも、農水省の4条件を満たすということなんですね。

その辺は、渡邊先生の研究成果からすると、どのくらいの手ごたえがあるのでしょうか。

 

渡邊:かなりいい結果が出ています。

諏訪では、周りに農家が多いので、農家のお手伝いしながら聞いたのは、電気がないから仕方なくやっていると言うのです。しかたなくというのは、例えば、ハウスのビニールの開け閉めするのも自分の手で開閉したり、水をあげるのも軽トラックの上に水を乗せておいて、その水をホースで撒くとか。40年、50年、その作業は、変わらないのですよ。

皆、歳をとって、その農作業に耐えられる体力があるうちは、それでもいいのですが、「電気があると何ができますか?」と聞くと、ハウスの中にセンサーを付けといて、農地の規模によるのですが、いくつかハウスが点在しているケースが多いのですね。放置されている農地も多く、それをある一画だけ間貸りしているというケースが点在している。

儲かってくれば、人を雇ったりもできるのですが、そうなるまでには10年かかったり、数十年かかったりするのですね。

 

細谷:我孫子でも結構、農地が放棄されているのを見ます。

 

渡邊:ビニールハウスの側面が通気性よくするために、ビニールを開けられるようにできているのですが、点在している農地で、農家の皆さんがよく言うのは、閉鎖されていると熱がこもってしまうので、例えば、ビニールハウスに温度センサーを付けといて、スマホにお知らせが来るとか、予測ができるといいと言うのです。温度管理が悪いと作物が悪くなってしまうので、スマホにお知らせが来たらそこに行って、ビニールハウスを開けるでもいいし、もっと先を行くのであれば、センサーと同時にハウス脇のモーターでビニールを自動で開閉できるといいと言うのです。

 

細谷:このビニールハウスを太陽光電力によって全自動で作物をつくるというのが理想ですね。

 

渡邊:この前も朝4時半に起きて、農家さんと収穫作業をしながら話をしていて、それができると収穫量が上がるというのです。その分、収穫する方に手がかけられるのです。収穫量をあげられるように整備をして、二酸化炭素を上げながら、もっとよい作物を作ることができると言っています。さらに今まで農地を34棟しか借りていなかったのが、56棟借りることができ、あまった手で作物を収穫する方に手に回したいと。一番、農業で一番忙しいのは、収穫時でそこは天候もあるので、時期が読めない。

来週かと思ったら、もっと伸びることもある。常に従業員がいて収穫しているというわけでもなくて、その収穫時だけ、来てほしいのですね。

農家さんは、息子娘に手伝ってということもできるが、実はなかなかそうもいかなくって、周りの地元のネットワークで手伝ってもらう。皆さん、作物が違ったりするので、時期も自ずと違って、皆、お手伝いしながら、収穫するのですね。

 

ですので、意識しているのは自家消費型です。

売電は、当初は意識していたのですが、農家さんで中には売電したいという方もおられるのですが、FITが終わったりするので、自家消費型の方が、畜電池があれば、一旦、電池に入れてしまえば、なんでも自動化できるので、それは農家さん次第だと思うのですね。

例えば、スマホが普及して、様々なアプリができると、農業の方の応用でもそれに対応したアプリでできるようになります。

長野県のブドウ栽培やっている方は、収穫作業の時にブドウの房を切るとき、そっと切らなくてはならない。その作業を一人で10002000も収穫するのですよ。その時に電動バサミというのを使うのですが、一日の収穫作業の際に3回くらい充電しなくてはならない。

充電するのに一回家に戻って、充電してまた農地に戻るとなると大変なので、栽培しているすぐ脇に充電器があって、そこでバッテリー交換できるといいと言っています。それの何がいいかと言うと休憩する時間ができるそうです。

ブドウ栽培している人は肌を出していない。だから30分に一回くらい休憩しないと熱中症になっちゃう。

休憩したいけど、収穫しなくてはならない。時間は、収穫、収入に直結している。

時間に追われている。朝は、日が出て、9時まで作業を終えて、10時までには農協などにも行かなくてはならない。後は、規格外のものはレストランに卸したり、知り合いに買ってもらったりと、いづれにしてもすごく時間に追われているのです。

 

細谷:とすると発電のメリットは、いろいろなものを自動化して、時間を短縮する。それが結局、農家のための健康と収入増になる、ということなのですね。それはかなり重要なポイントですね。

 

渡邊:まずは、そのあたりから電気に変えて、できそうなことから始める。作物も様々ですし、ハウスの規模にも因るし、太陽電池なので、面積もいろいろです。

 

【植物のサイエンス】

細谷:太陽光発電する設備も初期投資に相当な費用がかかりますよね。例えば、我孫子でも単価の高い作物の胡蝶蘭栽培を目指そうとしている方がおられます。レタスとか葉物野菜だと単価が安いので、単初期投資を回収できないと思うのです。

単価の高い作物を育てるというアイデアはもっておられますか。

 

渡邊:タイムリーなお話しで、胡蝶蘭栽培者を探そうと思っていたところなのです。

以前、NEDOのプロジェクトの際に太陽電池を使って小型のハウスを実験用に作った時のことなのですが、それは、半径R30㎝の曲面で、理論計算をしたかったので、アクリル製で作って、その上に太陽電池を張った研究なのですが、局面の発電量って、以外に少ないんですよね。光を通すというのは両面発電のようになるので、それを曲面発電の理論計算と実証データを突き合わせました。それは何を意識しているかというとハウスの向きも様々ですし、曲面もですが、曲面じゃない場合もある。いろんなモデルを考えておいて、先ず、小型のところで理論計算をして、本当に太陽電池が出回ったときに、この場所でやるのであれば、このくらいの発電量になるという資料を作っておこうと思ったのです。

発電量がわかると何に利用できるかということがわかると次の段階に行けると思うんです。

NEDOのプロジェクトでも最初は、さっきのように葉物とかでは最初はペイしないだろうから高価なもので実証実験しなくてはならないと思っていました。そして、プロジェクトの最後の成果発表の時に、では、どうするのですか、と言われた時にありきたりにトマトとかブドウ栽培しか答えられなかった。

先日も太陽電池を開発している会社の方と打ち合わせをしていたら、高価な作物栽培での利用でなくてはという話になった時にも胡蝶蘭とか花卉栽培がいいということになったのです。そして、最近、知り合った花卉栽培している方にも得られた電力でいろんなものを制御して自動化して栽培するのに一番最先端なのは花卉栽培と教えられたのです。

その方は菊栽培者でしたが、その花卉栽培の中でも母の日のカーネーションとか、一番単価の高い胡蝶蘭栽培に向いているということでした。

 

細谷:ただ、胡蝶蘭は、栽培にものすごいノウハウがあって大変難しいと聞いています。

 

渡邊:サイエンスが入っているのですね。

 

細谷:夏と冬の環境の違いをコントロールするのにものすごい高等技術を要するのでしょうね。

発電などせずに普通にビニールハウスで胡蝶蘭を栽培するとすごくエネルギーを使うだろうと思うので、経費も相当掛かると思いますね。

そこで、私は、渡邊先生の技術を少し工夫すれば、割と簡易なやり方で夏と冬で違う分量の日光をビニールハウスの中に入れるのも可能かなと思うのです。

 

渡邊:それは可能だと思いますね。少し温度、湿度とか光環境のデータを見ないとはっきりしたことは言えませんが。

実は、農家さんの話では、一番、怖いのは停電だそうです。

うちの大学だけでも、7月だけで2回停電しています。

数時間で復旧すればいいのですが、切れちゃうと温度が上がって、作物は待ってくれないので、大損になる。そういう時に補助電源的に太陽光で貯めた電力をバッテリーに充電して、停電したときにせめて温度だけでも安定させられるといいと思っているようです。

農家さんの皆さんが言うのは、温度が最も重要らしいです。温度だけでも保ってくれれば、光合成はしないかもしれないけど、死ぬことはない。人間でいうと食べなくても3日くらいはもつみたいな。そんな話ですね。

安心して栽培したい。しかも、胡蝶蘭のようにエネルギー投資をしてもダメになると相当な損害が生じることになりかねませんからね。

家の脇がビニールハウスなのですが、台風が来ると倒壊しちゃうのが怖いので、全部取り外します。中にある作物がもったいないと思うのですが、ダメになっても損害は数百万で済みますが、ハウスが倒壊したら、それこそ何千万の損害になります。自然には勝てないので仕方がありませんね。

 

【世の生にないものへの挑戦】

細谷:渡邊先生も研究費用も膨大にかかっているのではないですか。

 

渡邊:おっしゃる通りです。まだ、世の中にないものをやろうとしているので、光を通す太陽電池を作れる企業さんは、1社しかないので、相当なる費用がかかります。

しかし、これから生きていくうえで農業はすごく大事なことなので、そこを支援するというか技術で貢献できないかと思っているのです。

今は、光の効率競争になっていて、以前は、名だたる大手企業も太陽電池を手掛けていたのですが、今は、1社だけです。

この手の太陽電池は、日本だけでなく、ヨーロッパに多いのですね。ヨーロッパは、景観を損なうのはいけないので、日本みたいにあっちもこっちもメガソーラーというのではなくて、ステンドグラスがあるかのように太陽電池があるという方が受けます。

 

細谷:これからは日本も少し成熟してきて、そうなると思います。

薄膜型だとペロブスカイトが効率20数%とかですが、シリコン型の太陽光電池を売っている知り合いに聞いたら、その数値は、何枚か作ったうちの一番いい数値で謂わばチャンピオン数値で実際の処、10%あれば、御の字というので商売している。だから、20何%というのはあまり真に受けない方がいいと思います。農業は数%でもいいんです。

ペロブスカイトの太陽電池を農地で使おうとすると鉛が材料に入っているので、環境汚染につながるので、日本は特に問題視される。ただ、鉛じゃないペロブスカイトを開発している方もいるんですね。

 

細谷:先ほど、渡邊先生が仰っていたように効率については、数%でもよしとして進める方がいいと思います。そして、気になるのが、ある人たちは、シリコンと競争する気になっています。私は、現実は、そういうことでは決してなくて、メガソーラーはシリコンのままだという気がするんですね。それは一つは安定した技術なので20年、30年とやって儲けるわけですから。ただ、農業用はシリコンではない。もう少し効率は低くても、むしろ簡易であることが大事であると思うのです。もう一つ思うのは、個人住宅もおそらく有機薄膜型だろうと思う。今は、シリコンですが、もう少し初期投資が少なくて済むように感じているんです。そして、どの有機薄膜を使うか、実は、私は出来ればどれでもいいと思っている。

 

米澤:渡邊先生が今まで実施した実証実験は、すべて農業用のハウスに薄膜太陽光電池をつけたものなのでしょうか。

 

渡邊:そうです。トマトなんて1シーズンで一回、同じ作物で1回しかできません。それが3年分、4年分と積み重ねていくのです。環境の変化も様々ですから、収穫量も違ってくる場合もあります。

 

細谷:実証実験と言っても、肝心なところが制御とか、そういうものに大きく依存するのでしょうね。

 

渡邊:依存します。

 

細谷:いろいろやり取りしていると「実証」という意味が人に因って受け止め方が違う。よし実用開始という意味での実証だという人もいるし、私のようだと研究論文も実証の内だと思っているので、レベルがこんなに違うのですね。

 

渡邊:現在は、可能性は見いだせましたというレベルの実証ですね。

では、どこまでやったら大丈夫かというと、農業は気を付けないといけないのが、日本は島国で長いので、北海道でやる場合と九州の宮崎でやる場合と全く違います。

この手の話をしているとフィルムメーカーが寄ってくるのですが、遮光率だったり、透過率だったり、めちゃくちゃなんですよ。めちゃくちゃとうのは、太陽光スペクトルに対して、よく見ると白熱電球だったり、LEDだったり。全く違う。

 

米澤:根拠が全く違うのですね。

 

渡邊:スペクトルが違うから統一基準ではないのですよ。

ただ、農家さんは長年のお付き合いもあって、同じメーカーさんのフィルムだと耐久性が上がって、透過率が一緒というのをまた購入したりするので、見た目判断ですよね。

でも、人間の目の主観論と光合成とはまた違います。人間の目には暗いと思っても、作物には十分だったりするのです。

 

米澤:長野県の果樹試験場でも実証実験しているのですね。

 

渡邊:果樹試験場で4年間ブドウ栽培の実証実験をしたのです。胡蝶蘭も同じですが、ブドウも普通のブドウをやってしまったら初期投資を回収できないので、高いブドウで一房、3000円とか5000円とかするものを意識して県の予算で実験しました。ブドウ栽培の棚があるんですが、県の方ではいろんな試験データがあって、光合成についてのデータも持っていて、フィルムを日が当たる午前中は開けておくのです。フィルムというのは、ブドウ栽培用の普通のフィルムですが、ブドウの光合成のデータを取っていくと日が明けてから11時くらいまでは、光を吸収して、午後は、甘くしようとか大きくしようとかそっちの活動エネルギーに変わるのです。

光合成は、最初、ソーラーマッチングと言って、今はソーラーチューニングというのですが、植物は全てにおいて光をチューニングしているんですよ。

トマトでも種から植えている人はいないですね。苗を作る農家は苗を作ることに徹する。その方が、儲かるからですね。短期間で単位面積あたり、いっぱいの苗を作りますから。その時、逆に遮光して、強すぎるのを抑える。あとは、苗の購入者の農家さんが栽培をする時期に合わせるために敢えて、少し遮光しながら光合成を制御したりする。それも皆さん感でやっているのですね。

 

【植物のソーラーチューニング】

細谷:今のお話しをお聞きするとそこをある意味、科学で完璧にコントロールすれば、すごい収益が上がるということですね。

 

渡邊:そこはまだ可能性ということですね。

ソーラーチューニングといっているのは、今は光環境でしか考えてないですけれども、農業IoTという分野があって、後は土壌温度とか酸性とかアルカリ性のPh値とか、全部取って完全制御するのが農業IoT、後、人工知能と一緒にされてしまうと困るのですが、光環境を揃えて、作物に一番いい環境を作り出す。それで太陽電池で得られて電力を使って、LEDで補光する。曇りの日は晴れの日で蓄電したものを曇りの日の補光で使う。補光で使うというタイミングも通り一辺倒で当ててしまうとエネルギーがもったいないので、ここぞというタイミングと場所にセットする。

信州大学の先進植物センターで研究している研究者と知り合って、その方は、完全制御型の植物工場を意識しておられて、どのタイミングで光を当てたらいいか、長年の蓄積があるんですよ。その研究には、電力ばっかりかかってしまうという問題点がわかった。そういった頃に僕と出会って、僕は電力を作る方だから、そうするとお互いの技術で補強できる。

こちらは、電力をつくるけれどもフィルムをかけてしまう。そもそも曇りの日だと光が足らなくなってしまう。でも、太陽電池は光るわけではないので、光の部分は、信州大学の先生、研究センターの技術を使う。二人で申請書を書いていけば、なんかいい所取りできそうだなということになったのです。

 

米澤:蓄電池とも組み合わせるということですね。

 

渡邊:もっとそこにサイエンスが入って、光合成がかかるということにしなくてはいけない。

 

米澤:先生は、農業に特化しようとお考えなのでしょうか。

 

渡邊:まずは、そこですね。窓発電とか、自動車の太陽光発電開発は他がみんなやっていますからね。

大学が自然豊かなところがあって、そもそも2010年に谷先生から研究を引き継ぎ、谷先生の方は、ピンクシートから光合成する促進するという研究をやっておられたので、最初の発想の発端は、光変換をして、ピンク色のシートの傾向を見るということから始めました。

これが発電したら面白いと思いましたが、発電されるものはないだろうかといろいろ探ってみたのですが、そんな都合のいいものはなかなかありませんでした。それで光を通す作用であれば、自分が研究してきたことが使えそうなので、いずれは谷先生のピンクシートという気薄膜と融合させようと思ったのです。

 

細谷;そのピンクシートの処、ちょっと技術的な質問になりますが、発電もするけど、ピンクシートで光を変換するわけですね。収穫量は、どのくらい増加したのでしょうか。

 

渡邊:あくまでも葉物野菜ですが、10%くらい増加しました。

 

細谷:ピンクシートを入れた場合と、入れなかった場合の比較で、10%くらい良くなると、そうなると費用対結果の問題になるのですが、設備は、どれくらい高価なものなのでしょうか。

 

渡邊: 通常の10倍はしないかもしれませんが、そこそこしますね。

実証実験は、ドーム型のハウスで(東京ドームの小型いたいなもの)あそこはともかくエンジニアリングなんです。ドームの中は、ターンテーブルみたいに回っているんですよ。

真ん中に苗を植え付けして、回転していて、だんだん外側に行く。大きくなるにつれて自動的に移動する。そして、収穫は、外側でやるんですよ。だから、単位面積当たりの作物の量を最大にするような考え方です。真ん中は小さいものが密集していて、外周に行くにつれて、だんだん大きく成長していく方式なのです。その回転速度とか全部計算されていて、カートリッジみたいに移動して、生きていると作動しないのですよ。

普通の植物工場って、穴が開いているところがあって、小さくても大きくてもある間隔でしか植わっていないのです。上から見ると前面緑なんです。そこに細かくコスト計算がされていて、これはドームの価格が3000万するようです。簡単に言ってしまうと、1つのドームだけでは経営は成り立たちません。収穫量を2倍にするのであれば、土地代は別として、3000万のドームを2か所つくれば、収穫量は2倍になります。これはエネルギーコストを無視して。このピンクシートも2倍ということになれば、3000万かかっても構わない。ただし、収穫量は、2倍になんてならない。収穫が3週間だったのが、1週間半になるなんて起こりえないので。

で、どのくらいかというと目指すところは、収穫量が10%増くらい、300万くらいですね。もう1棟つくるとしたら+3000万。10%増やそうとすれば、ドームの110分、とすると300万くらいでシートが買えるのであれば、人件費とか作るための工費とか込み込みでならペイするだろうと、10%増はクリアしました。

 

【光合成のメカニズム】

米澤:となると今後、実証実験や研究される場合、どういう処に成果を上げたいと思われますか。

 

渡邊:まずは、2つですよ。

一つは、基礎研究として光合成をちゃんと測りたい。太陽電池の変換効率って、装置があれば簡単にでるのです。いわば、入射光なので、太陽光に対しての発電量だから、電流×電圧で出てくるのです。ですが、光合成のエネルギー変換効率って出せる人って誰もいないのです。これ出せたらノーベル賞ものになる。あくまでもいろんな仮定を基に、計算されています。

 

米澤:作物にも因るのですか。

 

渡邊:よります。それもある仮定のもとです。

太陽電池は、それぞれ交換度というのがあって、単色光を当てた時に簡単に言うとどれくらい電流が流れるかで発電量というものをそれぞれの光の波長に対して感度がでるのですよ。

 

ですが、植物の方はもっと複雑で青の光に赤の光を当てると足し算では出てこない。光のスイッチみないなものがどうも5つも6つもあるのです。すべてのバランスで成り立っていて、植物事態、光合成というのはエネルギー変換ですよね。それだけではなく、センサーとして使っているので、葉っぱの下、重なっている下の葉っぱが感じているのは赤外線。上で赤と青の光を取られちゃうので、下の葉っぱは光を取られたと感じるわけですね。そうするとフィトクロムというのが働いて、下の葉っぱに違うとこ向けと信号を送るのです。

 

細谷:なるほど、すごいですね。

 

渡邊:ただ、唯一、光合成を測るには、簡単なのはCO2なんですよ。CO2をどのくらい吸うかという量がわかれば、一定容器の中に入れて、葉っぱ入れて、光を当てながら、CO2を制御しながらですけれど、一定量入れて、入れる量から出た量を引けば、植物の吸収力、光合成がわかる。それは光に対して飽和するんですよ。それがわかるとその作物にどのくらいの光が必要かわかる。

後は、環境とか。外で育てたものを中にもってきてもダメだし、中にあった作物を外でもだめなのです。信州大学内の植物工場の中で育てたトマトを同じくらいの光環境の外に持ってきた。そうしたら3日持たなかった。少しづつ環境を変えながらでないといけないのですね。

光合成を測るということともう一つは、販売の出口が見えやすい胡蝶蘭とか高価なものでも全面を太陽電池というと予算的にもちょっと大変だと思うので、ある一画の処を貸してもらって発電量を見ながら栽培していく方法を取っています。

果樹試験場などは、最初から緻密にやっています。

 

只、ネガティブなこともやっているんです。完全遮光したらどういう状況になるかとか。わざと。

細谷:わざと悪い状況を作るということですね。

 

渡邊:それをやっておかないと、完全遮光といってもブドウ栽培の時には傘の部分が完全遮光なわけで、下からの散乱光とかはあるわけですよね。

いくつかの色のバリエーションだったり、遮光、寒冷遮光みたいなものをかけたり、かけなかったりとか。その裏付けも取らないといけないですし。

 

只、ブドウがちょっと難しいのは、樹木なので、今年環境が悪くても前の年に蓄えた根っこなのか、幹なのかわからないですが、その蓄えで成っているかもしれないということもあるのです。

 谷:話は変わりますが、ノーベル賞候補として話題の宮坂力先生のペロブスカイトについては、今、挑戦はしておられるんですか?

 

渡邊:ペロブスカイトは、今、ちょっとブームで、特に日本はブームになっちゃって、有機薄膜の変換効率が悪くても、ちゃんと使える実証を出せば、いくらでも使ってくれるような世の中になるだろうと思っています。

 

細谷:その時に、たぶんですね。いずれ競合したときに変換効率が良ければそれに越したことはない。渡邊先生の考え方自身は、材料が有機薄膜であろうが、ペロブスカイトだろうが、なんだっていいわけですね。結局、本質的なことは、薄膜だということと、透過できるということですね。

 

渡邊:農業をやっている人を支えたいということです。特に地方は、高齢化していて担い手不足が心配されています。

 

細谷:我孫子などは、農業の平均年齢は70歳を超えつつあるんですね。そういう後継者不足とかあって、そして、耕作放棄地が出てきている。という状況があって、だから、農業をある意味で成長産業にして、日本の将来を明るくするという大きな観点もあるわけですね。

 

渡邊:展示会に出ていたときに、農水省の中でも新しい新規プロジェクトを考える人たちも多くいます。

可能性のあるという人に声かけて、本当にできるんであればそこに予算が出るだと思うんですよ。そんな言い方をしていました。諏訪まで来て、5人くらい来たかな、「渡邊先生、これをやりたいんだけど、一緒にやりませんか。」って可能性を聴いてきた。できるのであれば、そういうテーマにします。「光対応型でソーラーシェアリング」予算はどれくらい必要ですか、という話もありました。

農地がないのであれば、紹介するし、いくらでも知っているから、実証してやって下さい。という勢いで足を運んでくれました。

高知県でやったデータはありましたが、これを日本の農業でとか、日本の産業でというには、その時は、タイミングが早過ぎて太陽電池が作れない状態だったのですが、その方とは未だに情報交換をしています。

 

細谷:結局、私たちがやっている市民団体で動いて、いや、我孫子市も動かなくてはいけないと思うのですが、一地方都市が飛びつくのは遅い。その時に農水省も手掛けていると早く進むと思います。

 

渡邊:農水省の中でやる発表会みたいなのがあるんですよ。半分は農水のプロジェクト予算を使った成果発表で、後もう一つは、農林水産にる成果として発表したことがあります。に太陽エネルギー学会が、かなり今、農業を押しており、今年、930日にも東京理科大の森戸記念館での講演会でも講演します。

そのテーマは、「営農型太陽光発電ソーラーシェアリングの最前線」です。

 

渡邊:農水の果樹試験場に教えてもらったのは、農水の条件がありましたけど、ハウスの上にフィルム型太陽光電池を乗せて自分の処で使うのであれば、許可は何もいらない。

 

米澤:そうなると薄膜太陽光電池は、既存のビニールハウスにその上につければいいのですか。

 

渡邊:そうです。簡単に言うとあくまで発電をする農業資材なのですね。ソーラーシェアリングという形になのです。

 

米澤:実証実験とか応用実験とかいうのは、どこを完成とするのでしょう。農家さんからしたら、実証実験を経ても利用する場合、いわゆる製品化したものを取り入れたいと思うのではないかと思うのですが、そういう意味では、どこまで応用とか実証実験をしないといけないと思っておられるのでしょうか。

 

渡邊:ひとつの必ずこれで行けるという例をつくるんでしょうね。たまたまそれを思ったのは、これいけるかなと思ったのは、地元なんですけど、UVランプ、UVDなんですね。人間にとっては良くないのですが、UVDのランプを夜中の3時間、12時から3時まで照射するとうどん粉病の発生率が0%なんですね。3時間だけで大丈夫なんです。それを農家さんが注目して、最初、イチゴ栽培から始めたのですが、それはどんな作物でもいけそうだということになったのです。

それも電気がないといけないので、農家さんは、自分の土地であれば、近くの電柱から電気を引っ張ってくればいいんですが、他人の土地だとそうわけにもいかない。自分のところで発電できれば、いい事になる。それも私が今、実証実験でつくった発電と換算するとLEDくらい作れそうなのですよ。ビニールハウスに陽電池を貼って発電しながら、UVランプをつければ、確実にできます。

農家さんは、うどん粉病に悩まされていて、うどん粉病が発生すると他にも迷惑がかかるので、全部刈り取らなければならない。それも考慮して、1.2倍から1.5倍ほど多めに栽培しといて、結果的にうどん粉病になったとしても収穫量は確保できるという方法で栽培しています。

 

それで、このUVランプの効果が認められると、面白いことに地元の重鎮がいいということになったら、全域に広がったのです。

【農業が大事・植物が大事】

米澤:これは環境にも特化していることだと思うので、実証化していると普及しやすいと思います。そうなると渡邊先生の研究の領域があろうかと思うのですが、どこまで研究を深めていきたいと思われますか。

 

渡邊:どこまでも深めたい。

これは、大学の講義の中でも「どこまでも深める。」と言い続けています。誰かが、コストが高い無理だって言っても、僕の世代でできなかったら、次世代の君たちが成し遂げればいいと話しています。

 

米澤:そうですね。

渡邊:自分の中でもはっきりしてきたんですが、技術を残したいのではない。そのメッセージを残したいのです。「農業って大事だよ」と。

農業だけが技術が入っていかない分野で、すごくエネルギーも資源も使っている。

もともとは農業って、ボイラー炊いたり、電池使ったり、肥料使ったり、もとは何かというと化石資源なのですね。さらに、化石資源って何だろうと考えると、もともと光合成って説はあるし、そうじゃないって説もありますが、これからは、太陽光エネルギーで電気もつくりながら、自分たちが食べるものを作るという方向になると思います。

 

細谷:そういう意味では、世の中、出回っていない。見たことのないものだから簡単な説明は難しいのかもしれませんが、先生の技術的な説明をわかりやすく皆さんに伝えるとしたらどのようになるでしょうか。

 

渡邊:農業をやっている人はわかっているのです。エネルギー問題など、そもそも問題意識が高いですね。やっぱり遮光しながら、夏なんて、栽培したりする。太陽光を遮光するのは、温度を上げたくない、完全遮光すれば、温度は下がるかもしれないけど、光を入れなくてはならない、ってその、絶妙なバランスで遮光率を40%にしたり、50%にしたり、その土地土地でやっています。そして、この光ってもったいないよねと。

それで、展示会で資料を出しておくと、「あった、あった、これだよ、探してたの」。そういう方が極まれにいます。

 

細谷:とかく、新聞に出てくるのは、変換効率の話ばかりで、何パーセントという競争の話ばかり出てきます。

 

渡邊:農業は、5%で十分です。フィルム型を全面に貼れて、影も作らない、で、しかも、既存のハウスにかけられます。

 

細谷:なるほど、そういえばいいんですね。

 

渡邊:それを一つのモチベーションというか、目標値にしているところなのです。

 

細谷:今、仰ったことは、私たちのような市民団体の役割だと痛感しました。その辺を、広く市民に分かりやすく、実際に必要な効率は5%で十分なのですと。シリコンと同等なものだというのは非常に素晴らしいですね。

 

今日は、とても貴重なお話しを伺えて、大変有意義でした。

私ども自然エネルギーをすすめる会としても我孫子に広めたいと思います。

 

 

どうもありがとうございました。